日本最〇端。 それは私たち旅人にとってのあこがれである。
しかし、正真正銘の最端地には容易に行くことができない。
北は、北方領土を入れるのかという領土問題に触れるし、東の南鳥島は一般人が入れないし、
南の沖ノ鳥島はご存じの通りタブーだし。
じゃあ、西は?-
そう、最西端の与那国島だけは一般人でも行くことができるのだ。
ならば、行くしかない。
そうして私は南ぬ島に降り立ったのである。
他のバカンス観光客たちがロビーへと向かう中、一人乗り継ぎ口へ。
一目見るとわかる、与那国島へ向かう便の待合室は猛者たちばかりであった。
搭乗するのは、こちらのプロペラ機、かりゆしを着た小麦肌のCAさんが、出迎えてくれる。
「ブルンブルン」とプロペラが回転し、機体は島の空へと飛び立った。
「なんてきれいな海だろう」
上空から見える八重山諸島のサンゴ礁は、これでもかとエメラルドグリーンに輝いており、私の胸を高まらせた。
「俺は今から、多くの人がしらない、日本の秘境へ行くんだ」
今から行く目的地が、それまで、日本に心躍る場所などもうないだろうと思っていた私の考えを
一変させる予感がしたのだ。
30分のフライトの後、飛行機は与那国島へと降り立った。
今まで見た空港のなかで最も規模が小さかったが、そこに漂う空気感は、
あわただしく過ぎる都会のソレとは違い、太平洋の海風が頬を撫でる、のんびりとしたものだった。
島で一番大きい村で原付を借りた私は、目的地も決めず、島を外周する道路をただ走った。
南の島への旅は、これが一番だ。
島の西側へ来たところで、道路のわきに、不思議なものが立っているのが見えた。
馬だ。
馬が私のことなど気にもしない様子で、じっと、台湾がある方を見つめている。
私は原付から降りて、近づいてみた。
見知らぬ人間が近づいているのにもかかわらず、その馬はじっと
海の方を見つめたままだった。
故郷でも、あるのだろうかー
私も無言で、同じ方向を眺めた。
その瞬間、私は彼と、あるいは彼女かもしれないが、種族の枠を超えて、地球に生きる兄弟同士として通じ合えたような気がしたのだ。
また原付を走らせる。気持ちの良い海風を浴びながら、頭に浮かんできたメロディーを声に出して歌う。だれも止める人などいない。その開放感が、妙に気持ちよかった。
しばらくして、南の方の集落に出た。
誰もいない砂浜の近くに、ぽつんと、さびれた建物が立っているのが見える。
中に入ると、そこは診療所だった。ただし、実際には使われていないが。
そう、ドラマ『Dr.コトー診療所』のロケ地である。
ドラマのセットとは思えないほど、離島の診療所の雰囲気が、細かい内装にまで表現されており、
制作人のプロフェッショナル意識を感じられた。
コトー先生と同じように、浜辺に座って、海を眺める。
「グー」おなかが鳴った。飯でも食べたいな。
近くにあるそば屋に入った。そば屋と言っても沖縄そばだが。
家族経営だろうか、エプロンをつけた少年二人が、お手伝いをしていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
この場所では、自然に、そう挨拶することができた。
年が離れていようとも、一人の対等な人間同士として。こんな当たり前のことでも、都会では忘れていたような気がする。
うまそうな飯が出てきた。スープを一口、飲んでみる。
「うまい」
これまで食べた沖縄そばの中でも、豚骨の濃厚さが特に際立っている。
上に乗った肉は炙られていて、その香ばしさが、スープの風味にプラスされているようだ。
添えられた紅ショウガもいいアクセントになる。
空腹を満たすように食らいついていると、常連と思わしき客が
「てびちーそば」を頼んでいた。
そばの上に大きな、炙り豚足が乗っている。
次来たときには、必ず食べよう。
その後も原付を走らせ気ままに島を回る。
ついに、日本最西端の岬に着いた。
「あぁ、やった。俺は旅人としてまた一つ、成し遂げたんだ。」
その石碑は、この離島まで来た私を出迎えるようにして立っていた。
写真だけじゃわからない。石の手触り、吹き抜ける海風、達成感、すべてが心地よかった。
この海の先には、台湾がある。
日本に一番近い国のすぐそばにある、日本で一番遠い場所。
この島にはロマンが詰まっている。
今もまだ、あの島に恋焦がれてやまない。
また来よう、今度は仲間と共に。